EVは本当に失速したのか?世界販売2,000万台と日本の温度差


この記事の要約

  • 世界のEV販売は2025年に約2,070万台に達し、新車のおよそ4台に1台がEVに。市場は失速ではなく、地域差が鮮明になる「選別の段階」に入った。
  • 中国・欧州・東南アジアが牽引する一方、日本のBEVシェアは2025年通年で約1.6%にとどまり、HEVが新車の3割超を占める主力となっている。経産省の「2035年電動車100%」目標も、BEV単独ではなくHEVを含む電動車100%である点に注意したい。
  • 競争軸は補助金や航続距離から、価格・電池・ソフトウェア・充電インフラへシフトしつつある。

「EV失速」はどこまで本当か。世界販売は2,000万台超え

ここ1〜2年、EVをめぐる空気はずいぶん変わった。SNSや経済メディアでも「失速した」「結局ハイブリッドが現実解」といった声を見かける機会が増えた印象がある。

ただ世界全体の数字を眺めると、その肌感覚とは少し違う光景が見えてくる。IEAの「Global EV Outlook 2026」によれば、2025年の世界EV販売は前年比約20%増で2,000万台を超え、新車販売の約4台に1台がEVだったとされる。2026年には2,300万台、販売比率28%へ伸びる見通しも示されている。

ここで言うEVは、IEAの定義に従えばBEV(純電気自動車)とPHEV(プラグインハイブリッド)の合計で、HEV(通常のハイブリッド)は含まれない。この前提は議論の出発点としておさえておきたい。

出典:IEA, Global EV Outlook 2026 Executive Summary

市場を牽引するのは中国・欧州・東南アジア

世界全体は伸びていても、その内訳はかなり偏っている。成長の主役は、いまや中国、欧州、そして東南アジアにある。

中国はすでに新車の過半がEV

IEAによれば、中国の2025年のEV比率は約55%。2026年にはほぼ60%に到達する見通しとされる。下取り促進策の一時停止もあって伸び率は前年より落ち着いたが、もはや「特別な選択肢」ではなく量販の普通車として根付いた市場、と言ってよさそう。

欧州はBEVが最高の成長率

IEAによれば、欧州はEUのCO2規制強化を背景に2025年の電動車販売が30%超伸び、主要EV市場のなかで最も高い成長率を記録した。地域全体のEV比率は28%に達したとされる。EUに絞ると、ACEAの集計では2025年通年の新車登録が前年比1.8%増となるなか、BEVシェアは17.4%(前年13.6%から拡大)、PHEVが9.4%、HEVは34.5%で最も多いパワートレインとなっている。メーカー側にEV投入を促す規制圧力が、価格戦略の見直しを後押ししている構図がうかがえる。

東南アジアは新興の急成長市場

東南アジアではEV販売が2025年に前年比2倍以上に拡大し、新車比率は20%近くに達したとされる。ベトナム、インドネシア、タイが中心。中国製の低価格EVと現地生産政策、税制優遇が組み合わさったところに勢いがある。IEAによればラテンアメリカも前年比75%増と存在感を増している。

米国は10%弱で踊り場

米国は新車に占めるEV比率が10%弱で推移し、IEAによれば年末にかけてEV税額控除の終了と歩調を合わせるように販売が落ち込んだ。なおこの連邦EV税額控除(新車最大7,500ドル、中古最大4,000ドル)は、トランプ政権下で成立した減税・歳出法案により2025年9月30日で失効しており、政策不透明感も販売の重しになっている。

出典:IEA, Global EV Outlook 2026 / ACEA

日本でEVが伸びにくい、その地味な理由

日本では電動化の「重心」が世界とずれている。JATOの集計によれば、2025年上半期の日本市場(軽自動車を含む乗用車登録ベース)でBEVシェアは1.3%にとどまる一方、HEVは33.8%と全パワートレインのトップを維持している。BEVに限った2025年通年の販売も、JADAおよび全国軽自動車協会連合会ベースで約6.2万台、シェアにして約1.6%。BEVとPHEVを合わせても約10.2万台、シェアにして約2.7%という水準で、世界の流れとはずいぶん違う構図になっている。

背景には複数の事情が重なっている。HEVの完成度が高く、燃費と価格のバランスで強い競争力を持っていること。集合住宅比率の高さから自宅で充電しにくい世帯が多いこと。国産BEVの選択肢がまだ限定的で、軽自動車やコンパクトカー需要の厚さもある。バッテリー劣化や航続距離への不安も、根強い心理的な壁になっている印象。JATOによれば日本国内で販売されるBEVモデル数は2019年の10車種から2025年に61車種まで増えたものの、うち国内ブランドはわずか10車種で、依然として輸入車中心の構図。輸入BEVの加重平均価格は約737万円、国産BEVは軽EVが寄与して約353万円と、価格レンジの分断も大きい。

とはいえ、これを「日本は遅れている」と一言で片付けるのは少し乱暴かもしれない。BEVでは出遅れているが、HEVを含む電動車では独自の強みを持つ市場。経済産業省が掲げる「2035年までに乗用車新車販売で電動車100%」という目標も、BEV100%ではなく、BEV・FCV・PHEVに加えてHEVも含む電動車100%という定義になっている。ここを混同しないことが、議論の出発点になりそう。

出典:経済産業省「自動車・蓄電池産業」 / JATO「Japan’s Automotive Electrification Trends (2025 H1)」

EV普及のカギは、環境性能から価格へ移った

初期のEVは、環境意識や先進性を理由に選ばれる側面が強かった。今は局面が変わりつつある。価格、維持費、充電のしやすさといった、もっと実利的な要素で比較される段階に入った気配がある。

象徴的なのが中国市場。IEAによれば、2025年に中国で販売されたBEVのうち約70%が、平均的なガソリン車より安かったとされる。小型車セグメントではEVがすでにガソリン車の販売を大きく置き換えている、という指摘もある。EVが高級車から大衆車へ重心を移している、ということだろう。

下支えしているのが電池価格の継続的な下落。BloombergNEFによると、2025年のリチウムイオン電池パック価格は前年比8%下落して平均108ドル/kWh、BEV向けに限れば99ドル/kWhと、節目とされた100ドル/kWhを2年連続で下回った。地域別では中国が84ドル/kWhと最も安く、北米と欧州はそれぞれ44%、56%高い水準。LFP電池の比率拡大と、中国を中心とした製造能力過剰がコストを押し下げている構図といえる。

出典:BloombergNEF

中国メーカーと電池供給網が、競争のルールを塗り替える

世界のEV市場での中国勢の存在感は、数字で見るとなかなかインパクトがある。IEAによれば、中国メーカーは2025年の世界EV販売の約60%を供給したとされる。生産拠点としても、中国は2025年に世界EV生産の約75%を担い、バッテリーセル生産では80%超を占めるとされている。世界の電池セルのほぼ全量は、中国・韓国・日本に本社を置く企業が供給している構図でもある。

2025年の中国EV輸出は前年から倍増し、250万台超に達したとIEAは伝えている。国内の価格競争が激しいぶん、海外展開のスピードも上がっており、東南アジア、中南米、中東、欧州へと販路を広げる動きが目立つ。欧州・米国以外の国々で販売されたEVの55%が中国からの輸入だったという数字もあり、5年前の5%未満から急拡大している。

ここで効いてくるのは、競争の対象が完成車にとどまらないこと。電池、部材、ソフトウェア、サプライチェーンを含めた産業全体の競争に移っているという見方が妥当そう。日本メーカーにとっては、車作りの競争だけでなく、エコシステム全体での競争に直面している、と言い換えてもよいかもしれない。

次の競争軸は、充電・ソフトウェア・SDV

EVが普及するほど、車両単体のスペック以外の部分が効いてくる。代表例が充電インフラ。IEAによれば、1,000V級アーキテクチャを採用した最初のモデルが2025年に登場し、10分を切る充電時間を打ち出す動きも続いている。一方で、250kW超の急速充電に対応できる車両はまだストック全体の5%未満にとどまるという現実もある。

もう一つの軸がソフトウェア定義車(SDV)。OTA(無線アップデート)、ADAS(先進運転支援)、AIによるバッテリーマネジメントなどは、EVと相性のよい領域。IEAも、BEVが現時点で最も先行したSDVになっていると指摘している。完全自動運転タクシーが商用展開されているのも、中国・米国を中心に20都市超でいずれもEVベース、というのが現状だ。

日本では集合住宅の充電環境という現実的な課題が残るが、経済産業省は2030年までに公共用の急速充電器3万口を含む充電インフラ30万口の整備を掲げ、段階的な前進を図っている。V2G(車から電力網への給電)や再エネとの組み合わせなど、エネルギーインフラとの接続も次の焦点になりそう。IEAによれば、個人向けV2Gの商業提供は2025年に登場し始めたばかりで、対応車種は限定的、規制・標準化もまだこれからの段階だ。

出典:経済産業省「充電インフラ整備促進に関する取組」

EV市場は「終わった」のではなく「選別の段階」に入ったか

整理すると、世界全体ではEV販売は拡大しており、「失速」のひと言でまとめるのは実態と合わない。一方で、中国・欧州・東南アジアが先行し、日本・米国は伸び悩むという地域差は鮮明になっている。

競争軸は、補助金や話題性から、価格・電池・ソフトウェア・充電インフラへシフトしている最中。日本市場ではHEVの強さがBEV普及を緩やかにしているが、世界では量販EVの時代が始まっている、と捉えるのが妥当そう。自動車産業の主戦場は、エンジンから電池とソフトウェア、そしてエネルギーインフラへ移りつつある、というのが現時点での見立てといえる。

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投稿者 koki