全固体電池、ついに実車へ。2026年の各社ロードマップと買える時期を整理

この記事の要約

  • 2026年はパイロット生産・試験搭載の年。消費者が全固体電池搭載EVを購入できるのは、早くて2027年後半~2028年が現実的なライン。
  • 中国勢(Chery、Changan、Dongfeng、BYD、CATL)がスピードで先行し、日本勢(トヨタ、日産、ホンダ)が堅実な基盤技術で追いかける構図。
  • 全固体の前に「半固体電池」が橋渡し役として登場しており、MG4 EVなどでは既に市販が始まっている。

なぜ今、全固体電池がこれほど騒がれているのか

EVに関心のある方なら、ここ数か月で「全固体電池」というワードを見かける回数が急に増えたと感じているかもしれません。2026年に入ってから、各社の具体的な発表が一気に相次いでいるためです。

従来のリチウムイオン電池は内部にある電解質が液体です。全固体電池(All-Solid-State Battery、略称SSB)は、この液体を固体に置き換えます。シンプルな違いに聞こえるかもしれませんが、影響範囲はかなり広い。

固体にすることで、理論上はエネルギー密度が高まり、同じ重さでより多くの電気を蓄えられるようになります。液漏れや発火のリスクが下がるため安全性も向上し、充電速度や電池寿命の改善も見込まれています。一方で、固体電解質の量産コスト、固体同士の接触面(界面抵抗)、温度変化による機械的ストレスなど、実用化への課題は依然として多い。

ここからは、世界各地のメーカーが今どの段階にいるのか、地域ごとに追っていきます。

出典: MIT Technology Review

中国勢の動き ── スピードと物量で世界をリード

率直に言って、中国メーカーの動きには圧倒される感があります。パイロットラインの立ち上げから車両搭載テストまで、スケジュールの密度が他地域を引き離しています。

Chery(奇瑞)── Rhinoシリーズの3段構え

2026年3月18日、安徽省蕪湖で開催された「Chery Battery Night 2026」で、Cheryは全固体電池技術「Rhino(犀牛)」を正式に公開しました。現時点で60Ah・400Wh/kgの全固体電池セルの開発とパイロット生産を完了しており、将来的には600Wh/kgを目指すとしています。400Wh/kg版は硫化物固体電解質と高ニッケル正極の組み合わせで、600Wh/kg版にはin-situポリマー化固体電解質とリチウムリッチマンガン系正極を想定しているとのこと。

戦略は3段構えです。通常EV向けの「Eシリーズ」、全固体電池専用の「Sシリーズ」、そして半固体電池を使う「E liquid」。半固体版はExeed EX7に2026年Q4に搭載予定。全固体版はExeed ES8で、2027年中に車両統合テストの完了を目指しています。

2026年2月には0.5GWhの全固体電池パイロットラインを稼働させたとSMMが報じており、2027年にGWh規模の量産ライン(2~5GWh)を計画中とのこと。

Chery側はこれを「中国初の全固体電池パイロットライン」と位置付けていますが、GACも同時期に大容量全固体電池生産ラインの完成を発表しており、「中国初」の称号については各社の主張が競合する状況です。また600Wh/kgはあくまで開発目標であり、現時点では実証段階の400Wh/kgが現実のスペックです。

Changan(長安)── Golden Bellの試験搭載

2026年2月24日、Changanは深圳証券取引所のプラットフォームで「Golden Bell(金鐘罩)」全固体電池プロジェクトの進捗を報告しました。エネルギー密度400Wh/kg、CLTC基準で航続1,500km超を主張しています。2026年Q3までに車両への試験搭載を開始し、量産は2027年からの見込みです。

ただ、航続距離以外の詳細スペックがほとんど公表されていない点は気になります。Q3に向けて具体的な情報が出てくるかどうか、注視したいところです。

Dongfeng(東風)── 極寒テストの先にある延期の現実

Dongfengは350Wh/kgの全固体電池を搭載した試験車両を漠河の極寒試験基地に投入し、-40℃~-30℃の環境で70種類以上のテストを実施しています。-30℃で72%のエネルギー保持率、170℃の熱箱試験クリアという公式発表がなされています。

当初は2026年9月の量産開始を計画していましたが、2025年12月にCarNewsChinaが「量産は2027年に延期された」と報じています。全固体電池の「延期」は珍しいことではありませんが、スケジュール通りに行かない現実を象徴する事例と言えます。

BYDとCATL

BYDは硫化物系固体電解質を採用した全固体電池の研究を2013年から続けており、2024年には20Ahと60Ahのプロトタイプセルをテスト済みとのこと。2027年に小規模生産、2030年頃に本格量産というロードマップを示しています。初期段階ではプレミアム車種から搭載を始め、段階的に普及帯へ広げる計画です。

CATLも2027年の小規模量産を目指しており、中国が2026年7月に全固体電池の国家標準(GB/T)を制定する動きと連動していると見られます。

繰り返しになりますが、航続距離の試験基準は必ずチェックしたい情報です。中国メーカーの数値はCLTC基準で、実走行では20~40%短くなるのが通例です。1,500kmなら実走行では900~1,200km程度。それでも十分長いのですが、カタログ値を鵜呑みにしない習慣は持っておきたいところです。

出典: CarNewsChina / SMM(Chery詳報) / Electrek(BYD)

日本勢の動き ── 堅実な技術基盤で追いかける

中国勢の発表ラッシュとは対照的に、日本メーカーは製造プロセスの精度と量産体制の構築に時間をかけています。

トヨタ ── 出光興産とのパイロットプラントが始動

トヨタは2027~2028年に全固体電池搭載EVの市場投入を計画しています。その土台となるのが出光興産との協業です。Reutersの報道によれば、2026年1月29日に出光興産は固体電解質の大規模パイロットプラント建設について最終投資決定を行い、千葉工場で建設を開始しました。完成は2027年中を目指し、年間数百トンの固体電解質を生産してトヨタのEVに供給する予定とのことです。建設は千代田化工建設が請け負っています。

ここで知っておくべきなのは、トヨタの全固体電池には長い延期の歴史があるということ。2017年にTechCrunchが報じた時点では「2020年までに車両搭載」という目標でした。それが延期に次ぐ延期を重ね、今の目標は2027~2028年です。さらに2025年11月には、バッテリー工場の計画が再度見直されたとNikkeiが報じています。出光のプラントが予定通り稼働するかどうかが、このタイムラインの信頼性を左右しそうです。

日産 ── 横浜工場で23層プロトタイプが目標クリア

日産は2025年1月から横浜工場で全固体電池のパイロット生産ラインを動かしています。2026年4月20日、日経アジアの報道によると、23層のセルを積層したバッテリーパック・プロトタイプが充放電の目標値をクリアしたとのこと。23層は実車利用に十分なレベルとされています。

米国LiCAP Technologiesとの提携も進んでおり、同社の「Activated Dry Electrode」技術で乾燥工程や溶剤回収を省略し、コスト削減と効率化を図っています。全固体電池搭載EVの市場投入目標は2028年度です。

ホンダ ── さくら市の実証施設から2028年へ

ホンダは栃木県さくら市に約27,400㎡の全固体電池実証施設を建設し、2025年1月にプロトタイプ電池の生産を開始したと公式に発表しています。投資額は約430億円。

ホンダの特色は、開発をほぼ完全に自社で進めている点です。ロールプレス方式で固体電解質の密度を高める独自技術を採用しており、従来のリチウムイオン電池製造で4工程かかる電解質充填を1工程に短縮できるとしています。2028年の市販車搭載を目標に、同じバッテリー容量で航続距離を約2倍(約1,000km/約620マイル)にする、もしくは同じ航続距離を維持しつつバッテリーサイズ50%縮小・重量35%削減・コスト25%削減を達成する、という二つのシナリオを公式に掲げています(両立目標ではない点に注意)。

日本メーカー3社とも、2028年前後を市場投入のターゲットとしています。中国勢より1~2年遅れに見えますが、「パイロット搭載」ではなく「商業生産」を基準にすれば、実質的な差はもう少し小さいかもしれません。

出典: Electrek(日産) / TopSpeed(ホンダ)

欧米・韓国勢の動き ── 実走テストと大型投資で存在感

Factorial Energy ── 改造EQSで745マイルを走破

米国マサチューセッツ州Billericaに拠点を置くFactorial Energyは、2025年9月にメルセデスEQSの改造車で749マイル(約1,205km)の実走テストを達成しました。Mercedes-Benz公式発表によれば、走行後にもまだバッテリー残量があったとされています(Electrekなど一部メディアでは「745マイル超」と表記)。

同社の「Solstice」プラットフォームはエネルギー密度450Wh/kgを達成しており、メルセデス・ベンツ、ステランティス、ヒョンデ、キアとパートナーシップを結んでいます。2026年2月にはKarma Automotiveと米国初の商用固体電池プログラムの開始を発表し、Karma Kaveyaスーパークーペへの搭載を計画中です。

なお、Factorialの技術は同社が「FEST(Factorial Electrolyte System Technology)」と呼ぶ独自のもので、ポリマーベースの準固体(quasi-solid)電解質を採用しています。Autoweekなど複数の業界メディアでは「semi-solid-state(ほぼ固体だが完全に固体ではない)」と分類されており、「全固体」と「半固体」の境界は企業によって定義が異なるため、この点は留意が必要です。

SPAC上場を予定し、企業価値は約11億ドル(pre-money)。Nasdaq上場後のティッカーシンボルは「FAC」、クローズは2026年半ばの見込みで、2027年の市場投入を目指しています。

QuantumScape ── Eagle Lineでの量産ブループリント

2026年2月4日、QuantumScapeはサンノゼの施設でパイロット生産ライン「Eagle Line」の開設を発表しました。独自の「Cobra」プロセスを核とした高度に自動化されたラインで、自動車OEM顧客へのサンプル供給、ライセンスパートナーへのGWh規模製造のブループリント提供が目的です。

VWグループなどの自動車パートナーとテスト中ですが、本格商業生産は2020年代後半という見通しです。

Samsung SDI ── BMW、Solid Powerとの三者連携

Samsung SDIは体積エネルギー密度900Wh/Lを目標に掲げています。同社公式によれば、現行量産プリズマティック電池の約40%増にあたる水準です。

2023年3月に韓国水原のR&Dセンターにパイロットラインを設置し、同年末にプロトタイプ生産を開始。2025年10月にはBMW、米国Solid Powerとの三者協業を発表しました。Solid Powerが固体電解質を供給し、Samsung SDIがセルを製造、BMWがモジュール・パックを開発して次世代評価車両に統合する流れです。

半固体電池 ── すでに市販が始まった現実的な選択肢

全固体電池の量産を待っている間に、「半固体電池(セミソリッド)」が先に市場に出てきています。

半固体電池はゲル状の電解質を使い、液体の含有量を大きく減らしつつ完全には除去しない技術です。全固体ほどの性能飛躍は見込めませんが、安全性の向上や重量低減の恩恵があり、既存の生産設備を大幅に変更せずに製造できる点が強みとされています。

具体的な市販例として、SAIC MGは2025年12月にMG4 EVの半固体バッテリー搭載モデル「Anxin Edition」の納車を中国で開始しました。53.95kWhの半固体マンガン系リチウムイオン電池を搭載し、CLTC基準で530kmの航続が可能。価格は102,800元(約14,500ドル)、期間限定の補助金価格で99,800元(約14,000ドル)からです。液体電解質の含有量を5%まで減らし、釘刺し試験で2時間経過後も煙・火災・爆発がなかったとSAIC MGは発表しています。

CheryのExeed EX7にも半固体電池が2026年Q4に搭載される予定です。

シカゴ大学のShirley Meng教授はMIT Technology Reviewのインタビューで「真の全固体電池の前に、半固体のようなハイブリッド技術が先に普及する可能性がある」と述べており、BloombergNEFも中国企業の多くが「半固体→全固体」の段階的移行を計画していると報告しています。

全固体電池の実用化をじっくり待ちつつ、今すぐ次世代バッテリーを体験したいなら、半固体電池搭載モデルは検討に値するかもしれません。

出典: Electrek(MG4半固体) / MIT Technology Review

冷静な視点 ── 繰り返されてきた「もうすぐ来る」の歴史

華やかな発表が続いていますが、少し引いた目で見る必要もあります。

全固体電池の「もうすぐ実用化」という話は、何年も前から繰り返されてきました。トヨタは2017年に「2020年までに車両搭載」と報じられ、その後何度もスケジュールが延期。Dongfengも2026年9月の量産開始を計画していましたが、2025年12月に2027年へ延期しています。計画通りにいかないのが、この分野の常と言えるかもしれません。

コスト面の壁も依然として高い。中国科学院の欧陽明高院士は「全固体電池が市場シェア1%に到達するまでに5~10年かかる可能性がある」との見解を示しています。市場シェア1%に5~10年という数字は、技術のポテンシャルへの期待と現実のギャップを端的に表しています。

「量産」という言葉の定義にも気を配りたいところ。実験室でのセル試作、パイロットラインでの小規模生産、限定車種への初期搭載、年間数万台規模の本格量産。これらは全く異なるステージですが、ひとまとめに「量産」と語られがちです。BatteryTechOnlineの14社タイムライン分析によれば、パイロット生産が2026~2027年、初期商用化が2027~2028年、本格量産は2030年前後というのが多くの企業に共通するスケジュールです。

Shirley Meng教授は「製造技術の進歩で、ついに約束を果たせるかもしれない段階に来ている」と語りつつも、技術的障壁がまだ残ることにも言及しています。

個人的な見立てとしては、2026年は「試す年」、2027~2028年は「最初の数台が出てくる年」、2030年以降に「消費者が普通に選べる年」が来る、という流れが妥当に思えます。

おわりに

この分野のスケジュールは過去に何度も変更されてきた経緯があります。購入を検討する際は、各メーカーの公式発表を定期的にチェックしてください。

この記事は執筆時点で得られた情報に基づいています。内容は正確性に配慮していますが、正確性を保証するものではありません。実際の最新の情報は別途ご自身でご確認ください。

投稿者 koki