EVバッテリーは本当に劣化する? 10年後も85%維持できる驚きのデータと長持ちさせる充電習慣

電気自動車の購入を検討する際、多くの人が不安に感じるのが「バッテリーの劣化」ではないでしょうか。スマートフォンのバッテリーがわずか2〜3年で明らかに持ちが悪くなる経験から、EVのバッテリーも同じように急速に劣化するのではないかと心配される方は少なくありません。

ところが近年、世界中で実施された大規模な調査により、EVバッテリーは私たちが想像していたよりもずっと長持ちする可能性が見えてきました。

この記事では、バッテリー劣化に関して得た情報と、愛車を長く快適に乗り続けるための提案をお伝えします。

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EVバッテリーの劣化、あなたが信じている”常識”は本当か?

「EVって5年くらいでバッテリーがダメになるんでしょ?」こんな話、聞いたことありませんか。

ネット上には、バッテリー交換に何百万円もかかるといった情報もあって、購入をためらってしまう方も多いようです。

でも、これって本当なんでしょうか。

実は、車両データ分析の世界的企業であるGeotab社が2024年に発表した調査結果を見ると、まったく違う景色が見えてきます。約5,000台のEVから収集した膨大なデータ(なんと150万日分!)を分析したところ、バッテリーの年間劣化率は平均でたった1.8%だったとのこと。

1.8%という数字を10年分積み重ねると、10年後でも容量の82%以上が残っている計算になります。多くのメーカーが「8年で70%を保証」としていますから、実際はもっと余裕があるわけですね。

もっと興味深いのは、バッテリー技術が年々良くなっている点です。同じGeotabが2019年に調査した時は劣化率が2.3%でしたが、わずか5年で1.8%まで改善しています。

パーセンテージにして22%の向上。これは決して小さくない進歩ではないでしょうか。新しいEVほど、バッテリー管理システムが賢くなって、劣化を抑え込めるようになっているのでしょうか。

EVバッテリーの基本構造と劣化メカニズム

EVの心臓部であるリチウムイオンバッテリーは、正極と負極の間をリチウムイオンが行ったり来たりすることで充放電を行っています。ただ、この過程で避けられない化学反応が起こるんですね。

その代表格が「SEI層(固体電解質界面)」の形成です。SEI層というのは、負極表面に自然にできる保護膜のようなもの。バッテリーを安定させる大切な役割を果たすのですが、この膜ができる過程でリチウムイオンが消費されてしまうんです。充放電に使えるイオンが減ってしまうわけですね。

面白いのは、このSEI層の成長スピードです。使い始めの初期段階では急速に形成されるため、新車から最初の数年間は劣化スピードがやや速く感じられることがあります。「あれ、もう劣化した?」と心配になるかもしれません。

でもSEI層がいったん安定すると、その後の劣化ペースは驚くほど緩やかになるとのこと。

これが「劣化カーブ」の特徴。最初の3〜5%くらいの劣化は比較的早く訪れますが、その後は20万km、30万km走っても80%台後半の容量を保てるケースが多いんですよ。

温度も重要な要素です。リチウムイオン電池が快適に過ごせるのは15〜35℃くらい。人間が過ごしやすい温度と似ていますね。高温環境ではバッテリー内部の化学反応が加速されて、劣化が早まります。

逆に低温だと化学反応が鈍くなって一時的に性能が落ちますが、最近のEVは優れた温度管理システムを備えているので、長期的な劣化への影響は思ったより小さいのかもしれません。

実測データが示す驚きの事実

オーストリアのバッテリーテスト専門会社Avilooとコンサルティング会社P3が共同で実施した調査では、なんと7,000台ものEVを分析しました。

その結果が衝撃的で、走行距離10万kmで平均90%のバッテリー容量が残っていたとのこと。さらに驚くべきことに、30万km走行後でも87%の容量を維持していたとの報告があります。

テスラの公式データも興味深い結果を示しています。モデル3とモデルYのロングレンジグレードで公開されたデータによれば、20万km走行時点で容量は80%後半を維持し、32万km走行後でも約85%が残っていたとのこと。

「5年で使い物にならなくなる」という噂

「5年で使い物にならなくなる」という噂、よく聞きませんか。

前述のGeotabの調査では、年間劣化率1.8%という数字が示されました。それが真実だとすれば、仮に年間1万km走行する一般的な使い方なら、5年後でも容量は91%程度を維持できる計算になります。

寒冷地での使用についても懸念の声があります。確かに低温環境ではバッテリー内部のリチウムイオンの移動が遅くなり、一時的に航続距離が短くなります。冬季の電費悪化は避けられません。

ところが、最新のEVは優れた温度管理システムを備えています。バッテリーを適温に保つためのヒーターやクーラーが組み込まれており、極端な温度による長期的なダメージを防いでいるんです。ノルウェーのような寒冷地でEVの普及率が高いのは、こうした技術の進歩があってこそなんですね。

バッテリーを長持ちさせるには?

それでは、具体的にどうすればバッテリーを長持ちさせられるのでしょうか。

以下のポイントを押さえることで、愛車のバッテリーをより長く健康に保つことができるかもしれません。

1. 充電は20〜80%の範囲を心がける

バッテリーにとって最もストレスがかかるのは、満充電状態(100%)と完全放電状態(0%)です。普段の使用では充電レベルを20〜80%程度に保つことで、化学反応による劣化を抑えられます。多くのEVには充電上限を設定する機能があるので、日常使いでは80%程度に設定し、長距離ドライブの前日だけ100%充電するという使い方が理想的ですね。

ただし、これはNMC(三元系)バッテリーの場合です。BYDなどが採用するLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーは、100%充電に対する耐性が高く、むしろ定期的に満充電することでバッテリー管理システムが正確な残量を把握できます。自分のEVがどちらのタイプか確認しておくことが大切です。

2. 普通充電を基本に、急速充電は計画的に

自宅での充電環境があるなら、基本は200V普通充電にしましょう。充電速度は遅いものの、バッテリーへの負担は最小限です。急速充電は長距離移動など、本当に必要な時だけ使うというメリハリが重要です。

特に夏場の高温時に連続して急速充電を行うと、バッテリー温度が上昇しやすくなります。可能であれば、1回の急速充電後は少し時間を置いてから次の充電を行うなど、バッテリーに休息を与える配慮があると良いでしょう。

3. 駐車場所は日陰を選ぶ

バッテリーは高温に弱い特性があります。真夏の炎天下に長時間駐車すると、車内温度は50℃を超えることもあり、バッテリー温度も上昇します。できるだけ日陰や屋内駐車場を選ぶことで、温度ストレスを軽減できます。

冬場も極端に冷え込む場所での長期保管は避けたいところです。可能であれば屋内保管が理想ですが、難しい場合は充電レベルを50%程度に保っておくと良いでしょう。

4. 長期間使わない時は充電レベルに注意

もし1ヶ月以上EVを使わない予定があるなら、充電レベルを40〜60%程度にしておくのがベストです。満充電のまま放置するのも、完全放電させるのも、どちらもバッテリーにとって好ましくありません。

また、長期保管中も月に1回程度はバッテリー状態を確認し、必要に応じて少し充電することをお勧めします。

メーカー保証とバッテリー交換の現実

ほとんどのEVメーカーは「8年または16万km」というバッテリー保証を提供しています。この保証では、期間内にバッテリー容量が70%を下回った場合、無償で修理や交換が行われます。

トヨタのbZ4Xやレクサスのいくつかのモデルは10年保証を提供しており、MGはタイで生涯保証の試験運用を開始するなど、メーカーの自信が表れていますね。これらの長期保証は、現代のバッテリー技術が十分に成熟しつつある証かもしれません。

万が一保証期間後にバッテリー交換が必要になった場合の費用はどうでしょうか。容量によって異なりますが、小型EVで50〜80万円、大型高性能EVでは100万円以上かかるケースもあります。ただし、バッテリーコストは年々低下しており、2025年現在で1kWhあたり約1万6,000円程度まで下がっています。

一方で、実際にバッテリー交換が必要になるケースは極めて稀です。前述のデータが示すように、適切に使用すれば20万km、30万km走行しても十分な容量を維持できるためです。

リセールバリューへの影響も気になるところですが、バッテリー劣化に関する正確なデータが蓄積されるにつれ、中古EV市場も成熟してきています。バッテリー健康状態を客観的に評価する診断技術も進歩しており、将来的には中古車査定でバッテリー状態が適切に反映されるようになっていくでしょう。

EVバッテリーは、かつて懸念されていたほど脆弱ではなくなってきているのかもしれませんね。

どのような使い方をするか

EVの購入を検討しているなら、どのような使い方をするかを考えて選ぶことも重要です。

日常の通勤や買い物がメインで、週末に少し遠出する程度なら、40〜60kWhクラスのバッテリーでも十分です。一方、頻繁に長距離移動をする方は、75kWh以上の大容量バッテリーと高速充電に対応したモデルを検討できるかもしれません。


この記事は執筆時点で得られた情報に基づいています。内容は正確性に配慮していますが、正確性を保証するものではありません。実際の最新の情報は別途ご自身でご確認ください。


参考リンク

投稿者 koki